私は電車の窓から見える景色がすきだ。
高校生の頃、帰りの電車から田んぼの緑が見えたときひどく安心したのを思い出す。朝一番空港に行くために重たいキャリーバックと一緒に乗った始発電車からは太陽が昇っていくのが見えた。夜の電車は何も見えない。疲れた私の顔とにらめっこするだけなのだが、にらめっこしていると不審者なので我慢しないといけない。
そんななんでもない自分と電車の窓から見えた景色のことを、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』(角川文庫)を読んで思い出した。
ここ一年ほど日常的に電車に乗る機会がなくなったからなのだろうか、思い出した景色は懐かしいものだった。大学の授業はオンラインがほとんどだし、そもそも学年が上がって取らなきゃいけない授業も少なくなった。外に出ていかなくても時間は進んでいくことを知った。2020年もあっという間で、カレンダーもあと一枚めくるだけ。私だけが時の流れに置いて行かれたような感じがして寂しい。
ふと思う。
電車に乗ることは私にとってのちいさな冒険だったのではないか。はじめての場所に行くときはいつも、ドキドキして窓の外ばかり眺めていた。景色が変わっていくようすを見つめていたのだ。