【読書感想文】少年を衝き動かした言葉

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「そうかそうか、おまえはそういうやつだったんだな」

 

これが、私の覚えている『少年の日の思い出』だった。

 

隣の家のエーミールが珍しい蝶を捕まえた。

「ぼく」はとても羨ましくて

こっそりエーミールの蝶を盗み、壊してさえしまう。

 

そのことを打ち明けた時に

「ぼく」にかけられるのがエーミールのこの言葉だった。

 

 

私にとって、『少年の日の思い出』は

犯した罪の大きさを知ることができる作品だし

自分の行動によって誰かから決定的に拒絶される

という経験を得られる作品だと思う。

 

もちろん蝶を盗もうとして壊した「ぼく」が悪いのは言うまでもないが、

それでもこんなにガツンと殴られるような

エーミールの言葉は必要だったのかと思っていた。

 

ちゃんと謝って仲直りしてハッピーエンド。

そんなしあわせな話ばかりが私の周りにありすぎたんだけど。

 

 

もう一度この作品を読み返してみると、

記憶にある意地悪で、調子に乗っていたエーミールはいなかった。

 

むしろ彼は蝶を愛して大切にしているし

怒りに任せてどなったり暴れたりしないし

優等生な人だった。

我ながらひどい記憶の改ざんだなと思うけど

エーミール自体よりも、その言葉ばかりに注目してしまうからなんだろう。

「きみはそういうやつ」という言葉から

悪いイメージを勝手に作っていたのかもしれない。

 

 

ちなみに今回読んだ

『少年の日の思い出 ヘッセ青春小説集』(草思社文庫)の「少年の日の思い出」で、

エーミールが「ぼく」にかけた言葉は以下のとおりだった。

 

「そう、そう、きみって、そういう人なの?」

 

この言葉について私は、

私がこれまでに読んできたもの

記憶の中にあったものとは違うニュアンスを感じている。

 

それまではエーミールの家柄や権力を感じてしまうことが多かったが、

今回は違った。

 

エーミールの純粋な疑問でシンプルな確認なのだろう。

同じく蝶を集め、コレクションしている同志として

「ぼく」を責めつつも突き放している。

 

コレクターとしては、同じコレクターたちにも、

そして蝶たちにも愛やリスペクトを感じられないといけないと思う。

だからこそ、このエーミールの言葉からは

いかに彼が本気で蝶の採集に取り組んでいるかが示されているのだろう。

 

ちょっぴり見方が変わるのと、あたらしい発見がある。